とあるPJの立て直し: 顧客との関係性

Reading time: 約5分
Publish date: 2020-01-04
Tags: agile, development, turnaround, project management, transparency, client relationship

 とあるプロジェクトの立て直しの記録に基づいて、プロジェクトマネジメントをテーマにシリーズで書き残したいと思います。今回は顧客との関係性について触れていきたいと思います。社会活動を行っている以上、良好な関係性を築くことは必須ですが、時として損ねてしまうことがあります。今回のケースでは以下のように対応しました。

要旨


現状整理

 本プロジェクトは受託開発であったため、発注元の顧客がいました。いずれの課題に対応するにしても顧客との関係性なくしては成し得ません。なによりプロジェクトを継続しないことになれば、対応そのものが不要になります。顧客との関係性は真っ先に対応すべき事項と考えました。

 請負開発でしたので、システムの完成責任はこちらにあります。他方で、顧客の関心の薄さのようなものも垣間見えていました。「システム開発はよくわからないので外注する」ということ自体はよくありますが、決まったメニューがあり「注文すれば出てくる」と捉えている印象でした。請負開発ですが要件定義書がなく1、他社製品を引き合いに「同じような機能を作りたい」という要求のみが先行しており、「なぜ自社で他社と同じようなシステムを持つのか」「自分たちが後発でやる強みは何か」などビジネス的な戦略とシステム開発が分断されていました。

 あたり前のことですが、高品質であれば顧客との関係性は自然とよくなるものです。現状のシステムが低品質である以上、リリースを迎えるにあたって手を打たなければ関係性の悪化は必死です。


他社は他社で努力している

 少し話は逸れますが、他社製品をベンチマークにすることは悪いことではありません。しかし、「複数の他社製品が持つ機能を全部備える製品があれば売れる」という考え方はシンプルですが、慎重に考える必要があります。

 一般的に「後発で全部入りで既存市場に勝負する」戦略は資本力のある大企業がとる方法で、大規模な投資が必要です。また、「機能を作ること」に目線が向きすぎており、ユーザー不在のシステムが完成する可能性が高まります。

 少なくともこの2つが成り立たないと他社の低品質な互換品ができあがり、器用貧乏に終わる可能性が高いです。他社がなぜそのポートフォリオになっているのかを分析し、自分たちの強みを活かせる戦略をとることが肝要です。


透明性を確保する

 引き継いだ時点で明らかになった課題は、早々にすべて顧客に伝えました。これらの課題を隠蔽したままの体制でうまくいくとは思えなかった点、リリース日程のマイルストーンに確実に影響を与える状況であった点を考慮した側面はありますが、一番の理由は、透明性をもって信頼関係を構築するためです。もちろん伝えた時点で、賠償責任を問われたり、契約解除というストーリーもあり得ました。この時点で撤退する選択がとれることも提示した上で、我々がどのように考え対応しようとしているかを示し、立て直していく意思があることを丁寧に伝えました。以下のような事実を伝えて、検討していただきました。

 信頼関係の基盤に透明性は必須です。何かを隠蔽した相手を信じることは難しいです。あるべき姿を目指すために、自省だけでなく、顧客側の意識にも言及しました。意識を変えて、協働し体勢を立て直していくことに合意できるかどうか、ここが最初の成否を分けるポイントでした。幸いなことに、本プロジェクトでは前進していくことに合意いただき、一緒に立て直していくことになりました。

 顧客の立場から得られる教訓は以下のようなものです。

 今回のケースでは顧客が関心を持っていれば、「早くシステムを触りたい」「こういう使い方をするとどうなるか?」といった当たり前の質問を投げかけることで顧客自身が開発の状況に疑問を持つこともできたのです。


よいものを作るためには積極的な関与を

 今回はネガティブな方向から積極的な関与をお薦めしている文脈になってしまいますが、これはあらゆるプロジェクトで言えることです。自分たちのビジネスのために取り組んでいるシステム開発ですから、自分たちの思いを伝え、形にしていく意思が本来はあるはずです。それなくして、「お任せします」という仕事の仕方ではイノベーションを起こす可能性は限りなく低いです。特に私が「責任の外注」と呼んでいるパターンでは、よい関係性を構築できずに失敗するか、使われないシステムができあがる可能性が高まります。

 内製であっても透明性を高めビジネスと開発を分断せず、積極的に議論をぶつけ、よりよいものにしていく姿勢を持ち続けることをお薦めします。

 顧客との関係性に関連しますが、契約上の課題もありましたので契約を見直すところから着手しました。次回は契約についてどう対応したのかについて記述します。



  1. 要件定義書がない・・かなり特殊な状況で、完成の定義がない請負開発は通常ありえません。双方にとってリスクしかない状況です。 ↩︎