気づきへの気づき

Reading time: 約6分
Publish date: 2023-12-09
Tags: agile, practice, team

 Agile Japan EXPO Advent Calendar 2023 10日目 の記事です。アジャイルは変化への対応に寛容です。外的な環境の変化、チームの状態の変化、個人の意識の変化、様々な事象が日々変化しています。アジャイルの価値を発揮するためには変化に気づくことが重要になります。

要旨

 

気づくとお互いを思いやることができる


気づきとは何か

 光がチラチラと反射する、大きな音がする、何かとぶつかる、といった直接的に五感に作用するものは気づきやすい(注意捕捉しやすい)でしょう。しかし、それでも五感ですら気づいていないことがたくさんあります。例えば、呼吸をしている、床の上に足が接地している、瞬きしている、といった「あたり前のこと」です。こうした「あたり前のこと」を認識から外すことは効率化して生きるための機序と考えられます。

 では、それを常に意識するようにすればよいのかと言えば、そうではありません。練習を重ねて反射的にできるようになることも人にとっては重要なことです。さらには、常日頃から「勉強しなさいと」言われ続けるとどうなるかは皆さんご存じの通りです。あるいはケガを防止するために気をつけようと意識していても、油断した頃にミスは起こるのです。

 では、無意識にあたり前になってしまったものを見直すにはどうすればよいでしょうか。例えば、素振りを続けて反射的に動作できるようになったものの、それが果たして最善か?よりよくなる方法はないか?を考える余地はありそうです。そうです、ここに「気づき」が求められるのです。とはいえ、バイアスとして学習している事柄はなかなか取り外すことができません。

 何かうまくいかなくなり、外的な刺激により、その存在に気づけるとよいですが、機能しなくなるほど続けてしまってから気づくのは得策とは言えません。その前に気づくことはできないでしょうか?「気づき」は、同じものを見ていても気づけるときと気づけないとき、気づける人と気づけない人がいるほどに曖昧なものです。

 そんな「気づきのためのヒントをいくつか紹介します。

  1. 定常的なものは何か探す
  2. 見えない制約を書き出す
  3. 見た目のバイアスを取り除く
  4. 外部の目を入れる

1. 定常的なものは何か探す

 「あたり前」に気づくために、あたり前になっていることが何かを探すという正攻法です。例えば、あなたの一日を振り返ってみてください。朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、着替えて、…、一日の動作を付箋に書き出してみます。フロー図の作成はみなさん得意でしょう。

 そして、疑問を投げかけます。

 改善のポイントが見つかります。そうすれば、後はいつものレトロスペクティブでカイゼンしていきましょう。余談ですが、私はこれを行い歯磨きの仕方を定期的にカイゼンしています。


2. 見えない制約を書き出す

 人は役割に従って行動するものです。その尺度により、やるべき方向性を明確にする一方で、ある仕事は自分の外側と判断したり、無関係として情報を落としたりします。もちろん、契約範囲外のことや権限を逸脱した行為は認められませんが、それ以外のことについての行動の規範は実はもう少し広いかもしれません。ここに見えない制約が存在しています。

という見えない壁があると改善にはなかなかつながりません。見えない壁を探ってみましょう。

など、率直に意見を集めてみるのもよいです。「実はそんな制約はない」「やりづらい部分はこうしましょう」という建設的な意見が出せると思います。見えない制約を明らかにしたら、見えない制約を安全に超えるためのルールを明確にし、心理的安全性を高めるとよいでしょう。

こうなれば放っておいてもカイゼンしそうです。ルールは永続ではなく、定期的に見直しましょう。


3. 見た目のバイアスを取り除く

 良くも悪くも視覚的な情報は認識への影響が強いです。第一印象の影響はみなさまも経験により、よく知るところでしょう。これを取り除くために「脳内置換」をご紹介します。

 私はよく脳内で人の見た目を入れ替えます。相手の外見が男性的であれば、女性的な外見だったらどうだろうか?相手が大人だったら?子どもだったら?と様々な仮定を設けて多角的に想像します。すると、「一見して強そうに見えても実はシャイな面があり、言いたいことが言えていないかもしれない」といった「気づき」のヒントになります。

 見た目を置き換える案を紹介していますが、広くは置かれている環境や属性を考えてみることにも有効です。構えを解くことで、先入観を取り除きやすくできると思います。

 もう一つ脳内置換のよい使い方を紹介しておきますと、電車や街中などで人とぶつかるなど不意なトラブルに遭遇したときに、「この人は私の大切な人だ」と思うとお互いに心はぶつからない解決策がすぐに思い浮かんだりします。トラブルでなくても、困っている人を手助けするきっかけになるかもしれません。大切な人を助けることにそれほど特別な理由はいらないでしょう。


4. 外部の目を入れる

 実はこれが最も簡単で効果的な方法です。ここまで紹介した3つの方法は自分自身あるいはチームですぐにできることですが、それでも自分たちが気づいていないことに「気づく」のは難しいものです。

 できるだけ同質性の低い、普段関わりの少ない人に入ってもらうとよいでしょう。「自分たちはすでにグループシンクに陥っている」と考えているチームの方が気づきやすいのではないでしょうか。専門外であっても「なんでこんなことしているの?」と素朴な疑問をぶつけてきてくれます。それに対して理由やいいわけ、説明を探すのではなく、「何でだろう?」と一度チームで考えて答えを出すとより効果的です。

 ただし、「第三者の意見を聞くつもり」で入っていただかないと、効果はありません。ただでさえ、自分たちが気づいていないことを指摘されるわけですので、元々丁寧に入る必要があります。「他の人の言っていることだし…」という事実もあり、これは実は難しいことでもあります。チームが素直に助言を受け入れられない事情がある場合、「少なくとも3つは気づきを取り入れてカイゼンする」など予め方針を決めておくのも手です。

最後に

 もうお気づきでしょう。そうです、一人一人の活躍を目指すアジャイルは、多様性(ダイバーシティ)との親和性が高い思想なのです。プロダクトを作り込んだり、プロジェクトを推進することだけでなく、チームや環境にもアジャイルの良さをぜひ活かしてください。